世の中のサービスや商品には値段が付いています。
あれはどうやって決まっているのでしょうか?自分が新しいサービスを提供するならいくらにするのがいいの?そんな疑問に答えてくれる一冊です。
本当にたくさんの事例を持って、それぞれの価格からビジネスモデルや企業戦略を解説してくれます。
「値づけの思考法」価格はどのようにして決まるのか?価格から見える企業戦略も面白い!
価格は感覚で付けちゃダメ!
この本を読むと得られるもの
なんとなく買うか買わないか決めるのに価格は大きなウエイトを占めています。
どうやって価格は決めるのか?
その価格にふさわしい企業戦略は見えてくるのか?
価格の不思議について学べます
2019年5月、セブンとローソンが賞味期限の切れそうなお弁当の廃棄を防ぐ為、そのお弁当を買ったお客に対してポイント還元を行うと発表しました。
電子マネーを使って、ポイント還元率を5%程度にするというものです。
目標が付いた商品を買うと100円につき5ポイント還元されます。
ここで疑問が生じます。
- 廃棄ロスを減らすために、なぜ直接的な値引きじゃなく、間接的な「ポイント還元」なのか?
- ポイント還元率はなぜ「5%」なのか?
- 5%のポイント還元は、どの程度ロス削減に繋がるのか?本部とオーナーの取り分は増えているのか?
値引きやおまけには、4つの方法があるそうです。
値引き、おまけ、キャッシュバック、ポイント還元。
同じ様で実は意味合いが全然変わります。
その中からコンビニ2社は「延期型の値引き」であるポイントを選んだということです。
つまり、定価を変更しない=すぐにディスカウントしないで、ポイント還元することで再来店を促すことを習いにしています。
しかも電子マネーを利用することで店舗のオペレーションには負担にならない様にしました。
このポイント還元によるロス解消は、消費者、本部、オーナー、納品業者、地球環境の全てに優しい上手な値引きです。
ではなぜ5%なのでしょう?
経済学の公理のひとつに、「価格弾力性は粗利率の逆数になる」という「ドーナフマン・シュタイナーの公式」があります。
日配食品の粗利率は約33%なので、その価格弾力性は逆数は約3となり、5%の値引きで売上個数は15%(値引率の約3倍)伸びると推定できます。
すげえ。こんな便利な公式があるのか…!
ローソンは5%の還元に加えて、売上総額の5%を子供の支援に寄付するとしています。
この場合、「社会貢献」というお客のメリットが加わるので販売を促進できます。
この寄付による価格弾力性を1と考えると、売上個数はさらに5%増えて20%と推定できるのです。
フードロス削減効果はどれくらいなのでしょう?
この分析でセブンの場合、7人に1人程度(15%)が値引きされた商品を選ぶと想定できます。
スーパーの値引きシールの貼られた商品はほぼ完売しますよね。
したがって、現状では売上の2〜3%の食品廃棄率は、0.5〜1%には減少します。
特にお弁当は現状売上の10%程度なので、3〜5%くらいになると思われます。
加盟店の取り分はどれくらい増えるのか?
廃棄ロスを半分減らしただけでも、オーナーの取り分は1日平均で1.12万円増えます。
これを年間で換算すると、コンビニオーナーの年収は600万円から800万円なので、平均年収が1000万円を超えることになります。
すげえやん、これ!
従来はタブーだと言われていた日配食品の値引きです。
しかし、この事例によって「値付け」がいかに企業経営に大きな影響を与えるのかがわかったと思います。
広告など値付け以外の販促では、ここまで収益は増えません。
広告の売上弾力性は0.1以下であることが知られているからです。
広告費を5%増やしても、売上は最大で0.5%しか増えないわけです。
このことからも、利益の95%以上以上が、値付けの上手さに左右されると言えます。
儲けの源泉のほとんどは、お客様が買いたくなる様な「スマートな値付け」を思い付くかどうかで決まるわけです。
うわあ、そんなに大切なものなのね…。
この本では、
- 定価で販売するか?価格を変動させるか?
- 値づけの論理
- スケール重視の低価格戦略
- プレミアム価格戦略
- 価格の心理戦略
- 価格の調整と顧客満足
の項目で、値付けに必要な知識と、その活用法について解説して下さいます。
様々な業種の実例が紹介されていて非常に興味深いです。
値段ってなんとなく感覚で付けてたけど、大間違いでした。
どんな商売でも商品やサービスには値段を付けないといけません。
この本を読んでより適正な値段が分かるようになりましょう!
プレミアム戦略価格
個人で商売をするなら、絶対に安売りはダメ!とよく聞きます。
数量よりも利幅でやらんとアカンということですね?
例としてあげられるのがランドセル業界です。
工房系ランドセル
2016年に新生児の数が100万人を割り込みました。
第二次ベビーブームの時には年間で200万個のランドセルが売れていたそうですから、単純に半分の販売数になるわけです。
こうした少子化の中でも「工房系」と呼ばれるランドセルが売上を伸ばしています。
このランドセル市場にみる「プレミアム価格戦略」について調べてみましょう。
工房系ランドセルとは、大量生産で安価にランドセルを作っているメーカーに対し、手作りでランドセルを作っている小規模なメーカーを指します。
順調に売上を伸ばしているメーカーは全国で20社ほどあるそうです。
工房系のランドセルは5〜14万円と、大量生産のものの3〜4倍はします。
それでも欲しいというお客をつかんできたのです。
工房系各社は順風満帆に売上を伸ばしてきたわけではありません。
ランドセル市場に大きな変化が起きたのは2003年。
兵庫県のセイバンが「天使のはね」というランドセルを販売し、大きなブームを巻き起こしたのです。
重心を変えてランドセルを軽くしましたという商品。
「天使のはね」というまさにこれ!とも言える絶妙なブランド名も相まって、市場全体の約半分のシェアを獲りました。
それに続き、イオンが「はなまる24」を売り出します。
価格は約3万円。選べるカラーランドセルを大々的に販売し、市場を席巻します。
こんな値段でデザインも優れた商品が出てくると、工房系メーカーは従来の販売先を失ってしまいました。
そんな苦境の中、工房系が新しい販路として希望を見出したのが「EC市場」だったのです。
ネット販売が小規模メーカーに有利に働いたのは結果論です。
規模が小さいので各社とも生産量は限られています。
つまり、作りたくてもそんなに多くは作れなかったのです。
ランドセルの製造は仕入れの関係もあり、ほとんどが見込み生産です。
しかも販売時期が集中する傾向にあるので、人気商品の場合は品切れになってしまいます。
そこにSNSです。
お母さんたちの間で広がる口コミがランドセルの販売に大きな影響を与えるようになりました。
ここで工房系の「売り切れ御免」のビジネスモデルが、買い物競争を煽る形になったのです。
そしてお母さんたちの間で人気ランドセルの注文を巡っての戦いは「ラン活」と呼ばれるまでになりました。
ネットでの購入者にアンケートを取ってみたところ、池田屋さんには「実際に体験したい」との声が多く届きました。
「そこまで多くの声があるなら…」と思い切って銀座に実店舗をオープンさせたのです。
結果は大成功。続くように多くのメーカーが銀座にショールームを構えるようになったのです。
このニーズへの対応策を実行していなければ、現状の工房系メーカーのプレミアム戦略は成功していなかったでしょう。
こういった消費者ニーズの把握も、値付けを思考する時には欠かせません。
ランステ
マラソンやランニングって身体ひとつで出来るので、お手軽なスポーツとして人気です。
しかし、最近ランニングにお金をかける人が増えてきているのです。
良い靴を買うのかな?
今、ランナーをターゲットにしたビジネスが東京では人気となっています。
「ランステ」と呼ばれる、ランナーが着替えたりするためのコインロッカーやシャワーを使える施設が急増しているのです。
皇居の外周はランナーの聖地として人気です。
しかし、走った後は汗まみれで電車で帰るのも嫌ですよね。冬だと寒いし。
その為、有料のスペースが皇居の周りに作られ始めたのです。
最初はランナーは銭湯を利用していたのですが、数も減っていってますし、汗まみれのランナーがたくさん来るのは地元客は歓迎しません。
銭湯が大人460円に対し、ランステは登録料400円、利用料900円、シャワー一回600円という価格です。
それでも人気があるということは、利用者にとっては「値ごろ感」があるということです。
調査によると、ランナーの50%以上は年収600万円以上だそうです。
都心で勤務していて、かつ健康に気を配っているような層は、比較的収入が高い人が多いんでしょうね。
では、ランステの収益はどうなっているのでしょう?
ランステは「ファンラン」と呼ばれるミニマラソン大会をよく開催しています。
参加費は大体3500円程度。仮に400人参加したら140万円の売り上げです。
さらに参加者は「ランステ」を利用するので、その利用料も入ります。
なるほどなあ。
需要を自ら創出しているわけか。
ランニング人口も年々増えていっています。
健康を意識する人が増加しているんですね。この状況だとウォーキングやサイクリングの市場も将来的に伸びていくはずです。
限定品商法
「今だけ」「先着○名様まで」「限定品」
そんな言葉に踊らされる日々。
逆に踊らされない人が不思議です。その違いはどこにあるのでしょうか?
「限定品」商法には5つのタイプがあります。
- 期間限定
- 数量限定
- 地域限定
- チャネル限定
- 顧客限定
いずれのタイプにも共通するのが「ティージング」です。
これはお客様の心をくすぐる、焦らすという効果があります。
あえて限定にすることで購買までのハードルを高めて、商品を手に入れたいという欲望を増大させます。
もちろん限定品といえばみんなが欲しがるわけでもありません。
では、誰を狙ったらいいのでしょうか?
企画する側はそこを押さえておく必要があります。
「お菓子とフィギュア」を使って限定品に対する消費者行動を調査したものがあります。
その調査結果では、限定品を好み人には際立った特徴がありました。
まずは男性より女性の方が限定品を好みます。意外。
男性は安心を求めてブランド品を選ぶ傾向があります。
一方の女性は買い物に刺激や変化を求めます。
限定品を買うのは、従来からある商品との差異が分かる人なのです。
また、限定品好きは「自己独立因子」と「集団同調因子」が強いこともわかりました。
自己独立因子の強い人は、他の人に束縛されず自分の意思で物事を決めていく性格を示しています。
自分できちんと選ぶという意思表示が、限定品購入という行動になって現れます。
集団同調因子の強い人は「みんなと同じがいい」と考える人です。
あれ?それじゃなんかおかしくない?
まさにここが消費者心理を理解する上で難しいところなのです。
この2つが強いということは「みんな持っているけど、その中でも特別なものが欲しい」という心理なのです。
日本人は元々限定品を好みます。
四季があるので、自然とその季節だけの様々な限定品が生まれたからです。
食べ物でも季節のものを食べたがる人多いよね。
一方、戦後ではこれまでと対照的な「マス・マーケティング」の手法が小売りの主流となります。
それはアメリカで発明された「チェーンストア理論」の影響を受け、同じものを大量に仕入れて販売し、欠品をしてはいけない」という考え方が広まったからです。
しかしその後、経済が成熟してマス・マーケティングの手法だけでは多様化した消費者ニーズを満たすことが難しくなりました。
ここから「限定マーケティング」への逆流が起きているのです。
今後は売上規模が小さくても、どのように利益を出していくかの仕組み作りが重要となっていきます。
これは逆に小規模な生産者にとってはチャンスなのです。
究極の限定品ってなんでしょう?
それは個別に対応する「カスタマイズ」です。
これからはより一層ひとりひとりにカスタマイズした商品が求められるでしょう。
少子高齢化で国内市場が縮小していくとなると、限定品商法の考え方は、今後の日本にとっての一つの解決策となります。
「値づけの思考法」を読んでやってみた
価格設定ってほんと難しい
実践してみたこと
- ビジネスモデルを考えないと価格は決まりません
なぜ価格設定に迷うのか?
それはビジネスモデルが決まっていないからです。
小さな小売店がスーパーの価格と張り合っている時点で負け確です。
そんなビジネスモデルの違う相手と戦っても勝てるわけがありません。
以前、植物工場野菜を売るという商売をしていたのですが、この時の価格設定が大失敗でした。
同じレタスでも、スーパーのレタスと値段を張り合っていたのです。
工場野菜のメリットは完全無農薬です。
消費者は値段が安いから買うのではなく、健康志向で買うのです。
そんな人に値段で訴求するのが間違っています。
しかも工場産は数量も限定です。まさにプレミアなのです。
僕は今、奈良で新しいお土産屋さんを始めようとしています。
これはまさに「地域限定」です。
同じものをネットで売ってもいけないということなんでしょうか?
ネットで売るなら、別で「チャネル限定」を用意するべきですよね。
これならどちらかを買った人にもう片方を勧めることもできます。
しかしこれの欠点は在庫数が増えること、回転が鈍くなることです。
うーん、悩ましい。
ここがビジネスモデルが決まっていない所以ですよね。
まずは始動して、そこから分析して修正していきます。
まずは、分けます!
めちゃめちゃボリュームもあり、読み応えのある本でした。
ほんといろんな事例と解説が載っているのでかーなり勉強になります。
是非価格について学んでみてください。
とりあえずこの本を読んでやってみよう、な!
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行動経済学から考える🥵け
著書名 「値づけ」の思考法
著者 小川 孔輔
出版社 日本実業出版社