最強の未公開企業「ファーウェイ」を築き上げた類稀なる才能を持った男の物語
任正非という名の男の物語
先日は5Gの話題で、アメリカとファーウェイの戦いについて書きました。
バックドアからデータを抜いている疑惑で副会長が拘束されたんですよね。
しかし物事は両サイドから見ないといけないと、偉い人が言ってました。
ファーウェイってどんな企業なの?
そこには1人の傑物の姿があったのです。ほんとビックリな内容です。
本を開くと冒頭にある一文。
ファーウェイが製品を通じて他国の情報を「盗み聞き」していると言うが、そんなことをするには任氏は賢すぎる。
サイモン・マレー
出鼻をバチコーンとやられた気分。いいですね!求めているものをわかってらっしゃる。
更に続く文には、
本書は一企業ではなく、一人の男の物語である。
先見性、勇気、決断力、誠実さ、高潔さ、寛容さ、不屈の精神など、リーダーに必要とされるあらゆる資質を兼ね備えた類い稀な男の物語だ。
人生において「何かになりたい」のではなく「何かを成し遂げたい」と考える学習者にとっての必読書である。
すごい。なんかもう池上遼一のマンガに出てきそうな人や。
下級士官だった「任正非」氏は、1987年に退役後わずか2万元を元手に3人の従業員とビジネスを始めます。
この時44歳。
そして今やファーウェイは世界160カ国で事業展開し、15万人の社員を擁する企業になったのです。33年でか…。
任さんとはどんな人なんでしょう?興味が湧きまくりです。
この本ではファーフェイ創業者である」任正非」の人生、経営論、思想など様々な角度から分析、紹介されてます。
このブログでは、創業までの歴史と、アメリカでの学びについて書いていきます。
ほんのさわりしか紹介出来ないので、是非本を読んでみてくださいね。
ファーウェイってとんでもない実力の創業者だった!
任生非、ここでは任さんと呼びます、は退役して商売人なり数年が過ぎましたが、何をやっても思うようにいかず悶々としてました。
当初はブローカーからスタート。それでも任さんは「20年後には世界レベルのメーカーになる!」と豪語してたそうです。
それから23年で予言通り世界2位の通信機器メーカーになりました。
なぜファーウェイは成功したのでしょう?
同時期、中国には数百もの新興通信機器メーカーが競争してましたが、そのほとんどが残っていません。
ファーウェイは不思議に満ちています。
まず疑問に思うのが、15万人の社員の大半はエリートです。どのようにしてそんな知識層を統率し、能力を引き出しているのか?
任さんはファーウェイの株のわずか1.4%しか所有していません。なのにどうして圧倒的な権威を持ち続けているのでしょうか?
もうすでに任さんの底知れなさがわかります。ここを解き明かしていきたいですね。
任さんには娯楽やスポーツの趣味がありません。友人もほとんど居ません。しかし他者とのコミュニケーションは得意です。
任さんは国内外のメディアのインタビューを一度も受けた事がありません。
そして77歳になった今も24時間世界各地を飛び回り、最前線で指揮しています。
ほんますごい。
普通の親族経営ではない
びっくりしたのが、娘さんが逮捕された時の話。
どんな娘さんだったのでしょう?韓国のナッツリターン事件みたいな感じ?
娘の孟晩舟さん(母方の性を名乗ってます)はなんと身分を隠したまま受付嬢として入社。その後財務部門で10年以上勤めました。
財務部門は重要なので、身内が入ると安心です。
もちろんコピー取りとか、そんな仕事もやってます。みんな娘と知らんしね。
そしてCFOに就任する時に初めて娘という事が明かされたそうです。その間入社から18年。
人事は実力での出世なので周囲ももちろん納得してたのですが、娘と聞いてびっくりですよ。
まじで?そんな事可能なん??もう謎だらけ過ぎますファーウェイ。
ファーウェイの戦略とは
任さんの経営理論あれこれ
ファーウェイの戦略については任さんは色々と発言されてます。
「ファーウェイの成功の秘訣は”鶏肋戦略”にある。欧米企業が見向きしないような不毛な市場を地道に開拓してきた。
欧米の通信機器メーカーが危機に陥った原因は利益率が高すぎたからだ。我々は薄利だからこそ生き残る術を身につけざるを得ず、経営力が高まった」
「戦略において短期的成果を求めるのは欧米企業の弱点である。我々がシスコシステムズやアップルに追いつくのも夢ではない。
彼らの戦略的基盤やリソースは我々より遥かに優れている。しかし彼らは短期的な利益を求める株主に対して責任を負わねばならない。一方我々はそういった負担はないのだ」
質実剛健とも言える戦略ですが、虎視眈々と欧米企業の牙城を狙ってますよね。
「いつも上位を狙ったり、首位を奪おうなどと、博打の誘惑に駆られてはならない。
ファーウェイの最低限かつ最高の戦略は”生き延びる”ことである。他者よりも長く生き延びる事ができれば、既に成功者なのだ」
「戦略家とは日和見主義ではない者だ。目標を定めたら全てを賭け、取るに足らない利益の誘惑を断ち、思い定めた道を真っ直ぐに進む。
小知恵を働かせてはならず、柔軟性や機動性に頼ってはならない。戦略家は揺るぎない意志を持たねばならないのだ」
めっちゃ偏見ですが、中国企業って「ガンガンいこうぜ」一択なイメージだったのですが、ファーウェイというか任さんは冷静に忍耐強くチャンスを待つタイプですね。
任さん達のシリコンバレー視察
1997年任さんとファーウェイ幹部は、アメリカの東海岸から西海岸へ横断する旅に出ました。
アメリカのIT企業を次々の訪問したのです。
そこで見聞きしたアメリカIT産業の興亡史に彼らは大変な衝撃を受けたのです。
大企業が一つまた一つと消えていきます。いくつものベンチャーが急成長したかと思えば、また消えていきます。
次から次へと新しい挑戦者は誕生し、絶え間なく死んでいきます。
任さん達はアメリカのオープンな文化やイノベーションが生み出す膨大なエネルギーを心の底から感じていました。
彼らの旺盛な起業家精神こそが、アメリカの総合力を形成しているのです。
旅の途中でクリスマスを迎えました。もちろんパーティーなんてやってません。
任さん達はシリコンバレーのホテルに3日間閉じこもって会議をしました。その議事録はなんと100ページ。
起業規模が小さければ、より大きなライバルにやられてしまう。しかし、いたずらに規模を拡大してもマネジメントの効率が低下する。
どんな大企業でも、絶えず変化する環境に対応できなければ生き残れません。
ではどうすれば、ファーウェイは生き残るのか。
任さんがアメリカの地で強い共感を覚えたのは、アメリカ人達の奮闘精神です。
「アメリカで成功した経営者、科学者、エンジニアにとって奮闘するのは当然のことだ。多くの奮闘者達が進化させ続けてきたからこそ、多数の偉大な起業が誕生したのだ」
一方、反面教師として任さん達の危機感を刺激したのが「ワング・ラボラトリーズ」の盛衰記です。
ワングは米国華僑のワンが創業した情報処理機器メーカーです。開発したワードプロセッサの成功により、アメリカ有数の企業へと急成長しました。
1985年にはワンの個人資産は富豪ランニング8位になるほど。
しかし、ワングは1992年には破産に追い込まれます。何が起きたのでしょう?
それは「閉鎖」にあります。ワンズには高い開発力がありましたが、独自仕様の製品にこだわり続けました。
そのためパソコンの台頭や技術のオープン化について行けず、顧客にそっぽを向かれたのです。
そしてもっと根本的な問題がワングの企業文化の閉鎖性です。
ワンは同族経営にこだわり、1986年には息子に社長を譲ります。これをきっかけに優秀な人材がワングを離れていったのです。
「技術や社会がめまぐるしく変化する時代に、思考が閉鎖的では活路は開けない」
これが任さんが導き出した答えでした。1999年任さんはこの様に語ってます。
「ファーウェイが生き残るには、常に他者に学び、オープンで協力的な体制を貫かねばならない。
閉鎖的な考えでは世界に追いつき、追い越す事は不可能だ」
13年後の2012年には
「どんな状況であってもオープンな姿勢を採り続ける方針は変わらない。オープンでなければ外部のエネルギーを取り込む事も、自分自身を成長させる事も出来ないからだ。
そして同時に批判的思考を持って自らと真摯に向き合う事が重要だ。いくらオープンさを強調しても、それが自己満足ではダメなのだ」
このアメリカ横断の旅は、ファーウェイの発展にとって重要な転換期になりました。
ここからファーウェイは、IBMから業務プロセス管理のシステムを導入し、戦略的思考の面でも多くの米国企業のシステムを取り入れていきました。
任さんは「(ファーウェイを目の敵にする)アメリカの一部の政治家と、アメリカ国民の偉大さを切り離して考えなければならない。政治家の振る舞いが気に入らないからと、アメリカから学ぶ事を放棄してはならない」
ここで、一つのニュースを両面から見る面白さがありますよね。アメリカサイドだけだとファーウェイってヤバいになるけど、任さんの発言を聞いているとまた違った感想になります。
中国の文化は歴史的に商業を軽んじてきました。そのため欧米のようなビジネス分野での企業文化、マネジメント手法などの伝統や蓄積されたものもほとんどありません。
ファーウェイだけでなく、レノボ、ハイアールなどの中国の最先端の企業は、その経営は欧米のものをベースに中国での実践を組み合わせたものなのです。
「ファーウェイ」を読んだやってみた
硬直化せず、新たなルールを作る大切さを学んだ
任さんは鄧小平を最も尊敬する人物として、むしろ崇拝に近い感じで公言しています。
鄧小平の「改革開放」の思想に大きな影響を受けて、ファーウェイの成功への道のりはまさに改革と解放の恩恵です。
GoogleやAppleが老舗企業を打ち負かし、トップに立てた理由も同じです。
歴史がなかったからです。
歴史の無さは不利な要素として語られがちですが、技術や市場環境が目まぐるしく変わる現代では、それが利点になる事も多いのです。
大企業や老舗企業は大抵自信過剰で高貴、伝統という名の固定的なパターンにはまりがちです。
なので時代の変化を前にしても変わろうとせず、閉鎖的になってしまいます。
一方、新興企業は束縛なく古いルールを破り、新しいルールを作る事が出来ます。
ファーウェイはオープン路線を追求する事で、中国的で欧米的でもある独特の企業文化を作り上げたのですね。
自分も今は老舗企業で働いてます。
老舗にはもちろん長く続いてきた理由と強みがあります。
そこはきっちり守りつつ、新しいものも取り込んでいかないといかんなあと思いました。
ここまででも濃厚なストーリーですが、本でいうならまだ5分の1ぐらいの話です。
まだまだファーウェイには強さの秘密があります。そこは是非本で確認して下さい。
著書名 最強の未公開企業 ファーウェイ: 冬は必ずやってくる
著者 田 濤
出版社 東洋経済新報社