人を襲うクマ

 

絶望的恐怖…「人を襲うクマ」に死んだフリは効かない!

あなたは生き残れる自信があるか?僕は無いです!

この本は日本で実際に起きた熊による襲撃事件をドキュメンタリーで記録し、遭遇時の対処法を記したものです。

当事者の手記やインタビューを元に書かれてて、読んでるだけで目の前に熊が現れるような恐怖を感じます。

 

山登りや山菜採りが趣味の方も多いでしょう。山麓に住んでる方も居られるかもしれません。

「まさか自分があんな目に合うなんて、想像もしてなかった…」

熊に遭われた方は皆そう仰るそうです。

 

知識として読んでおいて損はないと思います。

※但し熊に襲われる時の描写があります。弱い方は読まないように!

大学登山部のヒグマ襲撃事件

 

H大学ワンダーフォーゲル同好会の面々が北海道日高山脈における夏合宿での出来事です。

メンバーはリーダーの太田さん、辻さん、平野さん、坂口さん、杉村さんの5人(全て仮名です)。

日高山脈を南下するルート。二日目には春別岳に着き、夕食をとって全員がテントの中にいました。時刻は午後4時。

テントから6メートル程の所にヒグマが居るのを太田さんが発見します。全長約2メートル。テントの方を伺ってたそうです。

 

最初は5人とも興味本位で熊を観察していました。

クマは段々と近づいて来て、テントの外に置いてあったキスリング(大きなリュック)を漁りだしました。

流石に5人は恐怖を覚えて、熊の隙をついてキスリングをテント内に入れ、火を起こし、大きな音を鳴らしました。

熊は30分程姿を消しましたが、再び現れます。

 

鼻息が聞こえたかと思うと、テントの外から熊の爪がテントに拳大の穴を開けたのです。恐ろしすぎる…。

接近はこの時だけのようでしたが、2人ずつで見張り、交代で寝るようにしました。

 

翌日午前3時、出発準備をしていると、再び熊が現れました。

テントの中に入って様子を伺っていると、熊はテントの入り口を引っ掻き始めます。5人と熊とのテントの引っ張り合い。

反対側から飛び出して逃げ出します。

振り返って見てみると、熊は悠々とキスリングの中の食料を漁っていました。

 

ここで辻さんと杉村さんの2人が沢を下りてハンターを要請に行きます。

残った3人は熊を監視します。えええ…なんで一緒に下りなかったの…。

 

熊は1つずつキスリングを咥えて、近くの茂みの中に運んでいきます。音を鳴らすと驚いて林の中に姿を見て消しました。

その隙に3つのキスリングを回収します。その後仮眠を取ってから残りのキスリングも回収しました。

 

一方、要請に向かった2人は途中で出会った人達に要請をお願いし、食料なども提供してもらいます。

その為、2人はそれ以上下りず、仲間のもとに戻ることにしました。

午後12時、メンバーと合流。

 

5人は改めて稜線を歩き始めます。午後4時には野営の為にテントを張ります。

その時…。熊が再び現れます。

 

とっさに5人は飛び出して、50メートル程逃げます。

様子を見に戻ると、熊はまだテントに居座っているようです。

5人はそのまま近くの別のパーティーの元へと向かいます。

 

60メートルほど下ったその時、坂口さんが叫びます。

「熊だ!」

そんな中、辻さんは咄嗟に姿を隠します。

すぐ横を走り抜けていく熊。

そして20メートル下のハイマツの中から聞こえる叫び声。

30秒程の格闘の後、杉村さんが飛び出して逃げていきます。後を追いかける熊。

 

間も無くして太田さんと辻さん、坂口さんが合流。

平野さんは下から返答がするものの、その場には現れません。

 

平野さんは太田さんの声が聞こえるものの、何を言ってるのかまではわかりませんでした。

下に別パーティーのたき火が見えたので向かいます。

5分ほど下ったその時。

下に熊が居るのが見えました。

 

熊は平野さんに気付くと駆け上がって来ます。

平野さんは石をいくつも投げつけます。

そのうちの1つが命中。熊は後退りした後腰を下ろして睨みつけてきます。

 

平野さんは必死に見えてたテントにたどり着きますが、人はもう居ません…。

でも中に入ると少し安心しました。どうしていいのかわかりませんが、昨日も寝ていないので救助を祈りつつ仮眠を取ります。

 

太田さんら3人は翌朝まで安全そうな岩場で朝を待ちました。

杉村さんの安否が気になるので早朝より行動を開始します。

非常に濃い霧。

 

そんな中を注意して歩いてるのに、熊が2メートル前に現れます。

辻さんが「死んだふりだ!」と叫びます。

咄嗟に3人は伏せます。

 

30秒ほど後に熊が声を発すると同時に、太田さんは熊を押しのけるようにして駆け出します。

追いかける熊。太田さんの姿もすぐに見えなくなりました。

 

残った2人は一刻も早く助けを求めようと、急いで下山します。

 

先に別パーティーが助けを要請してくれてましたが、悪天候の為ヘリは中断。

翌日にハンター達が捜索を開始します。

 

そして、午後2時。ひとりの遺体が発見されます。

後に太田さんだと判明したその遺体は、衣服を全く身につけておらず、うつ伏せで両手を強く握りしめていました。

顔面の右半分は損傷。頚動脈は切られ、胸と背中、腹に無数の爪痕がありました。

 

続けてもう一つの遺体を発見。後に杉村さんと判明しますが、こちらも衣服は全く身につけてません。

太田さんよりも顔面の損傷が激しく、全身に傷痕があり、腹部はえぐられて内臓が露出しています。

 

捜索隊は遺体を安置しました。

その時。熊が現れました。

現場近くにかけられてた寄せ餌に近づくヒグマ。人間の気配にも全く怖れません。

ライフルが一斉に火を吹きます。

 

ヒグマはどっと倒れました。

しかし、再び立ち上がります。ハイマツの中へ姿を隠しました。

恐ろしい生命力です。人間じゃ絶対勝てんやん…。

その後熊は見つかり、とどめを刺されました。

 

おそらく襲った熊に間違い無いですが、用心しながら捜索を続けます。

残るひとり、平野さんの遺体が発見されたのは翌日でした。

隠れていたテントから100メートル。

やはり衣服は無く、体もズタズタになっていました。

 

ヒグマは中に入ったままの平野さんをテントの上から散々に噛み、そのまま引きずっていったようです。

平野さんは必死にメモを残していました。後半の文字は判読も出来ないものでした。

平野さんの恐怖がどれほどだったか…。

なぜこのような事件になったのか

熊の性質を理解しよう

なぜファーストコンタクトですぐに下山しなかったのか?

サブリーダーだった辻さんは以下の理由をあげました。

  1. 下山するには時間が遅く危険と判断した
  2. 暗くて熊の行動が掴みにくかった
  3. 過去、日高で熊が人に危害を与えた記録がなく、火を焚いたら姿を消した
  4. 翌日、カムイエクウチカウシ山をピストンして下山する予定にした

この辺の判断には問題が無かったそうです。

 

ではなぜ、2人だけを伝令に出して、3人は残ったのか?

「熊はテントに居座ると思った。それに下山するならば、キスリングの中にあった貴重品を持ち帰りたかった」

 

それならば、合流した時点で即座に下山に取り掛かるべきだったのでは?

「カムイエクウチカウシ山をピストンし、八ノ沢へ下るルートがサイト地のすぐ近くにあった。稜線上の方が安全性が高いと思った」

カムイエクウチカウシ山に登ることにこだわってしまったのかな…。

 

この事件は当時大きく取り上げられました。

今回は火を見ても、音を聞いても怖れず、執拗に人間を追って襲う熊。

しかも夏熊は痩せているという常識に反して、冬熊のように肥えていました。

おそらく登山者との接触によって熊の習性が変わっているのだと予想されます

 

また、ヒグマはとても執着心が強く、今回のように一度収得した物は、問答無用でヒグマの所有物になります。

これを奪い返す行為は大変危険なのです。

 

また、背を向けて逃げる事は、降伏を意味するだけでなく、睨まれる事もなく、ヒグマにとっては好都合です。

 

熊は基本的に人を避ける動物です。

食肉類に分類されますが、他の動物を襲って捕食する事は少ないのです。

人を襲う理由も99%が保身です。

 

しかし、人身事故は増加傾向です。世界中どこにも同じような報告はありません。なぜなんでしょう??

 

実はツキノワグワだけが上昇しているんです。

ツキノワグワの生息地域と連動した傾向が示されました。

事態を深刻にしているのは、現在では熊にとっては多少危険でも、その魅力にあがなえないような人由来の食べ物が豊富に存在している事です。

飼い犬のご飯、家の裏のゴミ捨て場、庭に植えられた柿の木、キャンプ場で捨てられた食べ残し…。

 

熊も人間と同じで、一度楽に美味しいご飯にありつく方法を覚えると抜け出せなくなります。

野生動物にとって、栄養価の高い食べ物を如何に効率的に摂取するかは本能なのです。

 

以下の注意も必要です。

  • 山に遊びに行く時は、鈴などを持つ。
  • 安全なルートの確認をする。
  • ツキノワグワが隠している鹿の死骸などには絶対に近寄らない。
  • テントの近くに残飯を置かない。

 

熊に遭った時は、刺激しないように相対したまま、出来るだけゆっくり下がって距離を取ります。

それでも突進して来た時は威嚇である事があります。

しかし本気との見極めも難しいです。

本気の場合は、頸部、顔面、急所を守って地面に腹這いになります。耐えるしかありません…。

 

この本では生還されたお話も多く掲載されてます。

是非読んでみて下さいください。

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著書名 人を襲うクマ 遭遇事例とその生態 カムエク事故と最近の事例から

著者 羽根田 治

出版社 山と渓谷社