合成生物学の衝撃

 

ヒトも人工的に作れる時代がやってきた…!「合成生物学の衝撃」

あとは倫理的な問題だけとなってしまった

この本を読むと得られるもの

最先端のDNA産業の現状がわかります。

今後どのような問題が発生しうるのかも予想できます。

生物学の発展でどのような未来がやってくるのかもわかります。

 

表紙からすでに不穏であり、目次がすでに衝撃的。

 

第一章。生物学を「工学化」する

コンピューターの性能は18ヶ月後に倍になっていくという「ムーアの法則」が物理的限界にきているのではないか?

ナノサイズの半導体を作る最も洗練された方法は生化学によってもたらされるのでは?

「いちばんやさしい量子コンピューターの教本」で気になる最先端の量子力学を学ぼう

 

第二章。人工生命体プロジェクトはこうして始まった

クレイグ・ベンターという科学者はヒトゲノムを読み、人工生命体「ミニマル・セル」を作り出すプロジェクトに着手する。

 

第三章。究極の遺伝子編集技術、そして遺伝子ドライブ

一文字からの修正も可能な遺伝子編集技術を使って、ある遺伝子を集団内で一気に広めることが出来る方法が生まれた。

マラリア蚊の撲滅、生物多様性の維持などへの使用が考えられるが…。

 

第四章。ある生物兵器開発者の回想

旧ソ連では合成生物学を使った生物兵器の研究が実際に行われていた。新しい病原体の開発。

著者は機密研修に携わった一人の研究者のインタビューに成功。

 

第五章。国防総省の研究機関は、なぜ合成生物学に投資するのか?

ベトナム戦争での兵器を次々と開発した国防総省の研究機関DARPAは合成生物学の最大のパトロンである。

 

第六章。その研究機関、DARPAに足を踏み入れる

著者はその研究機関の中で室長とマネージャーに会った。「機密研究を行っているのか?」の質問にまず彼らは「我々は世界のために研究している」と答えた。

 

第八章。人造人間は電気羊の夢を見るか?

ヒトゲノム合成計画が発表された。しかし代理母に出産させれば、親のいない「人間」の誕生になる。問題はないのか?

著者は以前取材した人工授精で誕生した人々の苦悩が思い出される。

 

第九章。そして人工生命体は誕生した

クレイブ・ベンターは「ヒトゲノム合成計画」を嘲笑う。「彼らは細胞ひとつすら作れないではないか」

ベンダーだけが人工の生命体「ミニマル・セル」の作成に成功したのだ。

 

もうすでに妄想が止まりません。警察24時に出てくる地下組織への突入を思わせる勢い。

著者の須田桃子さんの取材力凄すぎる。

 

合成生物学ってどんなの?という方はこの映画を観ると視点が色々変わるかもしれません。

7SEEDSとかイメージしてもらうのもいいかと。

 

生物マシンとDNA配列の歴史

インテル創業者の一人、ゴードン・ムーアが提唱した「ムーアの法則」とはコンピューターの主要部品である集積回路の複雑さが、一定の度合いで増えていくものでした。

しかし、マサチューセッツ大学のトム・ナイトは限界が近いと考えていました。

 

半導体部品のサイズを限りなく小さくしても、部品を構成する最小単位、すなわち原子の大きさが不変である以上限界があるからです。

ナイトはナノサイズの半導体部品を作る際に、原子を思い通りに並べる方法は、生化学がカギを握ると考えてました。

 

そんな時、イェール大学のハロルド・モロウィツが、

マイコプラズマという微小な細菌がわずか10億個の原子で構成されてて、単純な生物は理解出来る

と主張しているのを聞きました。

10億個って聞くとすごいけど、当時のマイクロプロセッサーのトランジスタは1000億個だったのです。

 

ナイトは「俄然いけるやん!」とやる気を出します。プログラミング可能な細菌を小さじ1杯作ることが出来れば、とんでもないコンピューターが完成します。

ナイトがやろうとしたのは生物学を「工学化」することでした。

つまり、トランジスタとシリコンチップに代えて、DNA配列と細菌を用いて、設計通りの「生物マシン」を作ると言うのです。

 

ナイトがMITのコンピュータ科学研究所内に分子生物学の研究所を設立したのと同じ時に、全く別の場所にいた科学者による新たなプロジェクトが始まります。

クレイグ・ベンダーはたった一人で研究所を立ち上げます。

ベンダーは当時はまだ夢物語であったヒトゲノムの解読に興味を引かれ、ヒトの全遺伝子の配列をデータベース化するという壮大なアイデアに夢中になりました。

 

ヒトゲノムは30億塩基対という巨大なサイズですが、その中でタンパク質を作る遺伝子にあたる配列は1〜2%に過ぎません。

ベンダーはこのタンパク質を作る遺伝子に集中するのが近道と考えて取り組みます。

 

たった1つの遺伝子を見つけるだけで論文発表出来る時代に、ベンダーの研究所では日々、20から60ものヒト遺伝子が発見されていきます。

ベンダーは1995年、3万個近くの完全な、または部分的なヒト遺伝子のリストを、大まかに機能を分類した上で発表し、ヒトDNAデータベースも公開しました。

 

そして、ベンダーの興味はいよいよゲノム本体であるDNAの塩基配列に向かうのです。

ヒトゲノム合成計画

ヒトのDNAを10年以内に人工合成する

国防総省の研究機関DARPAのプログラムマネージャーを著者の須田さんはとある場所で見かけます。

2017年にニューヨークで開かれた「ゲノム合成計画」の会合です。

 

このプロジェクトはゲノムを書く、すなわち「合成する」ことを目的としています。

前述した「ヒトゲノム計画」は30億塩基対のヒトゲノムを「解読する」計画でした。

 

つまり合成計画とは「ヒトのDNAを10年以内に人工合成する」というめちゃめちゃ野心的な計画なのです。

もちろん議論になったのは、それが「ヒト」のゲノムで行われるべきプロジェクトか、という倫理的な問題です。

 

当然拒否感を示す人は大勢のいるでしょう。

しかし発起人の一人、アンドリュー・ハッセルは「ヒト」でなければならない、という信念がありました。

 

初代ヒトゲノム計画は「ヒト」が対象だからこそ国際的な関心を集め、関連技術の発展を促進するなど産業面での成功もあったのです。

「物議を醸すテーマだがら同時に一般社会の関心を引きつけ、合成生物学で起こりつつある事に興味を持たせる事が出来る。歴史の1ページを開くには、一般の人々を巻き込む方法が必要なのだ」

確かにそれは一理あります。もしこれがミジンコのDNAだと僕も全く興味を持ってなかったです。

実際大きな関心を集めました。そして多くのメディアが批判的な報道を流しました。

 

完全消費可能な人間

翌月には計画の概要が発表されました。

その中の「可能性のある応用方法」として、

移植用のヒトの細胞や臓器の作製、人工的なヒトの細胞や臓器を使った、生産性が高くコスト効率も良いワクチンや医療品の開発

などが挙げられました。

 

それに対する反応記事としては「このような試みは膨大な倫理的課題を提起するだろう。科学者たちは、兵士になる為に生まれ、育てられる人間のような、ある種の特質を持つ人間を作りうるのではないだろうか。あるいは特定の人間のコピーが作られる可能性もあるのではないか」というもの。

まさにそこは誰しも疑問に思うところですよね。

 

将来、コンピュータ上で設計したヒトゲノムを合成する技術が完成すれば、理論的にはそれを受精卵の核に入れ、代理母の子宮に移植することで、親のいない人間を誕生させることも出来るのです。

 

ヒトゲノムの合成は人類を「再定義」しうる技術であるのです。

「もし精子と卵子を使わずにヒトを作れるようになったら、死んでも誰も悲しまない「完全に消費可能な」人間を軍部が作ることを、どうやって止めれるだろうか」

 

現在では遺伝子治療や胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った病気の解明や新しい治療薬を開発する研究で、すでに一部の遺伝子の改変が社会の了承のもとに行われています。

この人によって異なる「ない」のボーダーラインは今後の大きな課題となるでしょう。

 

「合成生物学の衝撃」を読んでやってみた

新しい読書の分野の開拓

今までのブログは、結構生活や仕事に密接した本を選んで読んでいました。

今回はほぼ初めてかな?読み物としての色が強い本を紹介してみました。

 

と言ってもゲノム編集は今後の社会において非常に重要な技術であることは間違いありません。

ある程度の知識は持っておいた方が良い分野です。

今回のテーマは倫理観としても非常に考えさせられるものです。

 

毎回こんな感じの本だとちょっと疲れるけど、たまにはいいなと思いました。

皆さんも教養を広げる本を読んでみてはいかがでしょうか。

この本では他にもめちゃディープな話題が沢山収録されています。

是非読んでみて下さいね。

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著書名 合成生物学の衝撃

著者 須田桃子

出版社 文藝春秋